大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(う)1343号 判決

被告人桜井の弁護人の控訴趣意第一点(刑事訴訟法第三七八条三号該当事由の主張)について。

原審が被告人桜井について、第二事実として、昭和二十五年七月十九日頃東京都豊島区雑司ケ谷一丁目二十番地の当時の自宅において塩酸モルヒネ約五瓦入一瓶を不法に所持した事実を認定したのであるが、右は第六回公判期日において、検察官から先に起訴に係る同年七月二十五日頃東京都港区芝汐留無番地菊地工務店内で、菊地清蔵に対し、販売方を依頼して右塩酸モルヒネ一瓶を不法に譲渡したとの訴因の予備的訴因として被告人が昭和二十五年七月二日頃から同月十九日頃迄自宅で右塩酸モルヒネを所持したとの事実が追加せられたことに基くものであり、原審は先の起訴に係る不法譲渡の訴因については、証明十分でないが、予備的追加訴因について有罪の判断をしたのであるから、無罪の言渡をしなかつたと説明していることは所論の通りである。

刑事訴訟法第三百十二条によつて、訴因の追加変更等が許されるのは、公訴事実の同一性を害しない場合に限定されること勿論であるが、先の起訴に係る不法譲渡の訴因は被告人が前記押収に係る塩酸モルヒネ一瓶を菊地清蔵に販売方依頼して不法に譲渡したというのであり、譲渡とは所持(占有権)を伴う所有権の移転と解すべきであるから、右訴因による公訴事実中には当然譲渡の前提として右塩酸モルヒネの所持の事実を包含するものということができ、右譲渡の事実が認定できない場合の予備的訴因として、右塩酸モルヒネの所持の事実を追加することは公訴事実の同一性を害しないというべきである。このことは譲渡の日時場所と所持の日時場所との間に所論のような相違があり、犯罪の構成要件を異にしているとしても目的物たる前記麻薬が同一である限り許さるべきである。而して本来の訴因と予備的訴因のいずれかが認定でき他方が認定できない場合において、認定できない訴因については主文において何等の裁判の言渡をする必要はないのであつて、理由中にこれを説明するを以て足るものと解すべきである。従つて原審には所論のように審判の請求を受けた事件について判決をしなかつた違法はなく、所論は失当である。

被告人高岸の弁護人の控訴趣意第二点(事実誤認及法令適用の誤)について。

原判決が引用する所論の証拠に、所論引用の記載があり、本件麻薬が密封した塩酸モルヒネ五瓦入の小瓶であり、桜井から借金の担保として被告人が受取つたものであること、金品在中の容器に鎖鑰又は封印を施し之を寄託した場合に関する判例が存すること、所持とは事実支配の状態であること、は所論の通りであるが、桜井と被告人との間の担保に差入れるとの約束は、被告人が外部の瓶だけの所持を取得し、内容物たる塩酸モルヒネの所持を取得しないというのでは、担保の目的を達しないことが明かであり、通常担保の場合には、貸金の返済不能の場合の処分権をも包含し、前記第一点引用のように被告人は桜井から売れるところを聞いてやるといつて預つたのであるから、被告人は本件塩酸モルヒネ一瓶を内容物と共にこれを所持していたものと認定するに妨げなく所論引用の判例の如く、内容物の処分権又は実力支配を伴わない単純な寄託の場合と其の性質を異にするので、所論の判例は本件に適切でなく、原審には所論の違法はない。

従つてこの点の所論も採用できない。

被告人菊地の弁護人の控訴趣意第二点(理由のくいちがい)について。

所論引用の各証拠並に本件記録を精査すれば、被告人菊地が本件塩酸モルヒネ一瓶を所持した場所は所論の通り、東京都港区芝汐留無番地で原判決認定のように同区芝西久保巴町でないことが認められ、原判決には犯罪の場所について事実の誤認があるが、犯罪の場所の誤認の如きは特別の事情がある場合の外判決に影響を及ぼさないことが明らかであり、本件麻薬の不法所持が証拠上押収物たる前記麻薬の存在等によつて明確に認定できる本件においては、判決に影響がないことが明かである。所論はこのような場合を理由にくいちがいがある場合であると主張するが、判決に影響のない犯罪の日時場所等のくいちがいの如きは、刑事訴訟法第三百七十八条に所謂理由のくいちがいに該当しないものと解せられるから、所論は結局採用できない。

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